第20話 親友Kチャンを偲ぶ
蔵王山のあまり人の入らない山深いカモシカ温泉跡。
ここは20年前の宮城県沖地震で山の地形が崩れ
その年の冬、今まで無かった大雪崩がカモシカ温泉の
山小屋を襲った。
温泉小屋は跡形も無く消滅した。
なだらかな山容の蔵王にあってががたる絶壁がせまる
俺は景勝のこの山小屋をこよなく愛していた。
しかしこの小屋跡の上部数百メートルにある温泉小屋の
泉源であった噴気孔は今も変わらず硫黄臭い激しい蒸気を
吹き出している。
蔵王山は活火山だというあかしである。
温泉小屋の泉源は土砂に埋もれているが、この噴気孔に
上流から流れてくる沢水の流れをシャベルで溝を掘って
水を入れると 沢水は温められ温泉となる。
温度の調節は沢水の流量を変えるだけでよい。
この温水を石で壁を作りシートで囲んだ穴に貯めると温泉
になる。
東京から来た山の親友Kちやんをここに案内した。
誰もいない静寂!鳴り続ける噴気の音のみだ。
周りは山肌が迫る絶景。
携えてきたたった一本の缶ビールを彼に飲ませた。
俺は山道の運転があるので飲まなかった。
Kちゃんは温泉に浸かりながらビールを飲み大満足だ。
その彼はガンに倒れあっけなく逝ってしまった。
山に消えたあいつという山歌に[あんないい奴どこにも居ない」
というくだりがあるが本当にそのような友達だった。
腎臓が悪く塩分を控えた俺の残したラーメン汁をもったいない
と飲み干したり、スーパーに食材を買い出しに行けば
サンプル食品を食べまくる。
これで年商数億の会社の社長なのだ。
新しい山道具を見せびらかし「いーだろぅ」なんて自慢する。
そうだ!Kちゃんは子供の心をいまだに失わない大人なのだ。
下品な俺の下ネタ(Hな話ではないよ!わんぱく小僧がよく
話すウンコなどのキタネー話)によく話を合わせてくれる。
俺も子供っぽいところがあり困っているとオカーチャンは
ぼやいているが、こんなところがKちゃんとチャンネルが合って
いたのだ。
そのKちゃんの夢を没後5日後見たのだ。
夢の中のKちゃんは奥さん(今も健在)を同行していた。
俺は彼をカモシカ温泉に案内した。
カモシカ温泉はあのビニールシートの風呂ではなく木の立派な
浴槽だ。
そうだ!これは20年前壊れたはずのカモシカ温泉の浴槽だ。
奥さんは恥ずかしいからと、水着で入っていた。なぜか混浴だ。
夢って不思議ですね!
壊れる前のカモシカ温泉は男湯と女湯に分かれ、なぜか女湯
の窓からロバの耳岸壁の絶景が眺められ、男湯は眺望もなく
やぶが見えるだけという男は不平たらたらの浴槽なのだ。
なぜ女湯の眺めがいいと知っているのか?て。
それはシーズンオフで客の居ないときそっと入ったのだ、ヒヒヒ!
夢ではこの浴槽は露天の中にあり岸壁の絶景は夢でもはっきり
見えた。
廃虚となったカモシカ温泉小屋は浴槽だけ残りお湯を入れれば
まさに夢の中の浴槽だ。
そこでこの浴槽のわきに彼の遺品である帽子を埋めた。
彼の汗がしみ込んだ帽子はカビが生えていた。
彼のDNAは間違いなくこの浴槽わきに埋められた。
少し穴を掘り石を印に乗せその上に酒をかけKちゃんに飲ませた。
最初は帽子を埋める場所を彼と入浴した噴気孔の近くにしょうと
思ったが今年3度にわたる震度6の地震で落石の可能性があり
やめた。
それより夢に出てきた情景の場所が良いと思った。
霊界では過去にも戻れるのでは、と勝手にきめた。
浴槽のそばでいつも風呂にはいれるだろう。時々酒を持ってきて
やるよ!