第13話 雷はキンをねらうか
2000年5月の連休は天気に恵まれた。そのしっぺ返しか連休明けの8日夜、宮城の天候は大荒れになった。
激しい雷、30米近い突風ととも3~4㎝の巨大なヒョウが激しく降り地面は見る見るうちに真っ白になった。ビニール屋根の物干し雨よけにも穴があき我が家の車の屋根も小さなへこみが無数に出来た。
折から花を付けた蔵王の梨、桃園は全滅、花も小枝もヒョウの直撃で無惨に地面に散らばっていた。50年果樹をやっているがこんな事初めてと農家は嘆いていた。
しかし俺は以前、山でこれよりひどいヒョウに遭遇したことを思い出した。
それはやはり5月の連休、八方尾根の雪上にテントを張り、白馬連山を登っていたときのことだ。
頂上からテントへ下山中、突然今まで見たこともない黒い雲が冷たい激しい風とともにやってきた。
そして髪の毛が逆立ちはじめ、解けた雪で濡れた地面の所では電気の通りも良いとみえ、指の先端はビリビリと感電し始めた。
雷雲の中に居るわけでいつ雷の直撃を受けてもおかしくない。金属製ベルトの腕時計やバックルなどはずしリュックの中へいれる。
それでも誰かが、「男は皆持っているキンははずせない、どうしょう!」なんて冗談もでる。女の雷だったら危ないぞ!なんて。
こんなふざけた奴らを懲らしめるためか、鋭いせん光にドカンと爆弾のような音の雷とともにゴルフボールぐらいのヒョウが降り始めた。雷の音は山にこだましてものすごい。
いきなり一発目の雷は近くの尾根に落雷したのだ。これには皆腰を抜かし雷の落ちやすい尾根道をさけ下の雪渓を滑ったり転んだりしながら必死に走る走る!
幸いにして雪渓の上は厚い電気絶縁体の雪のおかげでビリビリは無い。
しかしヒョウは容赦なく降り注ぎ厚手の登山帽を通しても小さい金槌で激しく頭をたたかれているようであった。手を頭にかざすと手袋を通して手がかえって痛い。
幸いにしてテントに近く10分くらいでテントに逃げ込めた。
このテントは重いが丈夫なビニロン製で冬山用の2重張りなのででヒョウで穴は開かずに我々を守ってくれた。