第3話 ペンション開業してトホホ
いよいよペンションは開業となった。昭和60年1月のことだ。
一番目の客は、ここを作った大工,屋根屋など工務店関係者で約30名の大パーティだ。
体を使う人たちなのでよく食べ、よく飲む。次から次ぎと気持ちよいほど平らげ、料理を作るのに忙しく、こちらは夕食もとれない。
酒は新築祝でもらったのが浴びるほどある。酔っぱらってくると小便のねらいも定まらないとみえ、トイレの床はビショビショ、料理の合間に何回も掃除に行く。
洗い物は食器はもとより、調理器具、コップ、灰皿などと多く、洗っても洗っても仕事は続く。
鉄道の歌(線路は、つずくーよ♪)なんて歌が思い出され、
(おー皿はつずくぅーよ どーこまでもー♪…)と頭の中でエンドレスに、歌が回る!
十二時になっても二次会は続く。
やっと午前一時におひらき。でも酔いつぶれた何人かが広間にゴロゴロと転がっている。起こしてもすぐ寝てしまうし、毛布をかけて寝かせておく。
風呂をのぞいたら誰か裸であおむけになって倒れている。
ドキンと心臓がなるほど驚いた。
死んでいるのかと思ったのだ。揺り起こすとやっと起きた。それでもヨロヨロしながら自分で服を着てくれたのは助かった。浴槽の中で眠ったら危なかったろうに。
このときから飲み会での夜中の風呂はいつも心配の種で眠れず何回も風呂を見に行く。温泉なので寝るとき入るのを楽しみにしている人も多いので、夜中にクローズしにくいのだ。
たてまえは、11時に閉めることが書いてあるが、常連は朝までお湯が出ているのを知っているから困る。
しかし監視カメラもまさか風呂には使えないのだ。
こんなわけでオープン初日は疲れすぎて、朝まで一睡もできなかった。
とんでもない商売に首をつっこんだものだと、おもった。 トホホ!
しかし30年ペンションをやってきたが、この最初の最もきびしい試練が効いて、その後ハードな事も、どんなに忙しくとも、やれる自信がついた。
しかし風邪をひき具合の悪いときも会社にいるときと違い休むわけにはいかないのだ。
ふらふらする40度の高熱の体で冷凍イカをさばいたときは、寒気のする体の頭のてっぺんに電撃のような冷たさのショックが伝わるのだ。
この時だけは百万円もらっても仕事はやだと思った。
ペンションオープン時、かなりの借金があったので2年間、平日は会社、
土日はペンションと無休の日々を過ごした。そして借入金なしの気楽な経営が出来るようになったのでオープンは土、日曜日だけにした。
それは脱サラして初めの頃平日もやったことがあるが、平日は2人という申し込みが、けっこう多かったがしかし、料理の材料は2人でも5~6人でも仕入れは同じで材料も余ってしまう。
俺と女房の2人で作れるものは限られており毎度同じである。
持って帰っても皆飽きて犬も食わない。
光熱費も大きい建物なのでかかり大変、遊んでいたほうが良いのだ。
それに忙しいサラリーマンからせっかく脱サラしたのに、のんびりすごしたいよー!
こんな訳で、土日曜だけ営業している俺を、近所のペンションは趣味でやっていると言う。
でもお客様には誠心誠意つくすので宣伝もしないのに常連客が多い。
他のグループとかち合うと、お互いに顔見知りなんて事もよくある。
そのときはお互いに盛り上がり合同宴会になるのだ。
こんな時俺も加わり、ビールをケースごとサービスで出して、バンバン自分が飲む?
後で女房にサービスしすぎと怒られるが宣伝費だ!と俺は受け付けない。
俺のペンションは団体、グループの客が多い。
しかしたまには2人ずれの申し込みもあるが、それが部屋にバス、トイレがついているか?とか聞いてきたり、ひどい人は料金が安すぎるのでそのまま電話を切ってしまう。これはバブル景気の時よくあった。
彼女とムードある休暇を過ごすには2万円ぐらいのホテルに泊まっていただきたい。
二人ずれでも、もちろん、イイお客さんが大半ですが。
俺のペンションは女房と2人だけでやっているのでそんなにご馳走も出来ない申し訳ないので安くしているだけだ。人を雇えば料金も高くなるだけです。
でもボリューム一杯、調理師である女房の味付けした鍋は新鮮な魚介類と合ってうまいですよ。(ペンションは調理師まで必要でなく数日の講習会でOK)
ところで俺のペンションは子供の料金がない。調理の手がないので子供も同一メニューでありベットも子供でも1人分使うから同一料金という単純な発想なのだ。
それに、人を雇わずにやっているので、大人料金でも他の宿の子供料金ぐらいだからだ。
子供の食事は要らない!というお母さんもたまにはいる。
子供はいくらも食べないので、自分の食事をわけて、と軽い考えなのだろうが子供は傷つく。
現に「僕のどうして無いの?」と聞く子がいた。
忙しかったが子供の好きそうなスパゲッティ付きの特別メニューを作って無料でサービスした。
1~2才の幼児ならともかく、若いお母さん、子供の心は金ではかえませんよ!
では会社人間から解放されて得た自由のたび失敗談を続けましょう。
ヨーロッパの鉄道をフリーで乗れるパスを手に気ままな1か月旅のはずが、とんでもないことになる。