エッセイ 遙かなガンダーラ
ここは仏教発祥の地 ガンダーラ
今はその面影もなく
イスラムの地
厳格に日々の生活を律する回教の国
遠く望むヒマラヤが
モスクの塔が
その変遷を知っている
わずかに しるしを残す 仏像遺跡
そびえ立つ崖に 刻まれた
五米ほどの仏
冨と権力で作られた 奈良の大仏
それと比べ なんと素朴な
しかし 名もない工人が
荒涼とした自然 旅する人々の無事を祈り
渾身の力を使い 作った 崖に残る仏の像
恵まれた 富める国の王子
若者となり 初めて出た城外で
みにくい老人をみて 老いを知り
苦しむ病人を見て 病をおそれ
死せる人を見て 死とは何かと 答えを求め
城を 家族を捨て 苦しい断食と 瞑想のくりかえし
六年の歳月 それでも解けない 奥深い道
ガンダーラの ブッダの像
すさまじい修行 求道を物語る ブッダの像
かっては修行僧で 満ちあふれた
仏教寺院跡 タフティバヒ
しかし今は 観光の季節もはずれ
人の気配もなく 静寂の中に たたずむ
石積みされた 多くのほこら その中に
仏像が安置され 全体を 屋根が覆い
ほの暗い ほこらを照らす かすかな燈光
今はそれもない 僧の読経 それもない
ガンダーラ 遙かな昔の ガンダーラ