エッセイ 秘境チトラル
普通は空路で行く 秘境チトラル
11年の大遠征 望郷の念に
反抗 進まなくなった軍隊を率いた
アレキサンダー大王も
17年苦難の 仏法を求める旅
三蔵法師も たどったこの道を
あえて15時間 車の苦行
ジープにて 峠をめざす
きびしい峠の登り 故障した 車を追い越す
ジープ改造のトラックも 氷河のほとりで
苦しそうに あえいでいる
どこまで続く つづら折りの 狭い道
たどり着いた峠には 粗末な茶屋が
しかしそこで飲む 一杯のお茶
その味は 天国のお茶
お釈迦様の甘茶
質素な家に 暮らす人々
イスラムの教え
女性は ベールで 顔をかくし
カメラを向けるのは 難しい
それでも 少女は
はにかみながら モデルになり
お礼のボールペン 握りしめ
走り去る
気の遠くなるような昔 2300年前
アレキサンダー大王の軍が 通った道 その子孫の
ととのった顔の女学生 小さな学校 人なつこい少女達
更に数時間
山あいの道を 走る
果てしない 遠征から 逃れ隠れ住んだ
アレキサンダー軍の子孫 カラッシュ族の村
少女のような 母親
旦那に許しを取り カメラに
イスラムでない 彼女らは
ベールもない
家の中には あどけない
姉と兄 ヨーロッパの
血筋をひく 端正な顔
閉ざされた 秘村の
家の中 電気もなく
むかしのまま
時計が 異質なものに 見えてくる
何もない 小屋の中
第一夫人か?
やや年輩の 母親
小さな赤子を
いとしげに ほほずりし
しかしとまどいを 見せた
その顔が 何もない 暮らしを恥じてるよう
秘村を観光化する 悪の物質文明