第12話 社長!ヨットいかがですか
社長はワンマンでこわい人という評判であったがおれはチヤレンジ精神に富んだ、この社長がすきである。
自ら、リヤカーを引きラジオなどを修理して歩き、ここから自分で会社を築き上げた人で大企業の雇われ社長などと違い自分の会社、オーナーなのだ。
ある日、社長が一人でひょっこり、この八王子工場へ来て、昼食時、社員食堂で一人お盆を持って、どこへ行こうかと迷っている感じであった。来客でもないときは社長室に食事を持ってこさせるような事はしない人なのだ。
しかし皆が敬遠している気配を社長も感じていたのであろう。ところで俺と目が合ったので軽く会釈をしたら、トコトコときて俺の前に座った。
そして食事をしながら「君はヨットをもっているそうじやないか、すごいね!
アメリカでは金持ちがヨットをやり、貧乏人はゴルフをやるんだよ」なんて、言っていた。
その頃の日本では、貧乏人は麦を食って?金持ちはゴルフというあんばいだった。(注、当時の池田総理が国会でうっかり言った有名な失言、「貧乏人は麦を食えばいい」と、米が不足していた時代で金に余裕がある人が米を買うということ。)
社長は、イヤミで俺に言うのでは無くほんとうにうらやましそうな感じだ。
俺は「いやいや、そんなことはないです、ただヨットだけがすきで、全部これに注ぎ込んでいるだけです。
なんでしたら社長も一隻買われたらいかがですか。私が船頭になりますから」と、言った。
社長は危なくないのか、とかチッポケな船ではどうなんだとか聞いてくる。どうも海はにがてらしい。そして俺は社長付きの船頭になりそこなったのだ。
ところで今日の日本は素晴らしい経済発展をし、金満国家になったが、まだ皆はヨットを持っていない。海洋国日本なのに。
日本より貧乏なニユージランドでは、五家族に一隻のヨットを持っている。なぜだろう?ニユージランドヘ旅をしてほぼ分かったことは、ヨット手作り派も多く、安く出来ることと、維持費、係留費用がベラボーに安いということであった。
でもそれだけだろうか?
日本では、ブランド品を身に付け、高級な車に乗って、レストランで、ぜいたくなものを食うのが、リッチと考える価値観の相違があるようだ。
かってイタリアからきた研修生から聞いたが、イタリアでは、夏一力月以上の休みが取れ、ポンコツ車の上に、山のようなキャンプの道具を付け一家そろって、海へ山へと行くとのこと。
同じ敗戦国なのに、金がなくとも、時間、生活を楽しむ道を行く、イタリアが羨ましかつた。日本は経済大国になって皆の生活が向上してから、むしろ自分勝手になり、やさしさが無くなったようだ。皆さんもそう思いませんか?