第11話 ふたたび山へ
海への、ほとばしるような情熱を失った俺はふたたび、何となく、また山へ足を運ぶようになった。
そしてこの頃、ハイキンククラブだった会社の山の会に入会した。もう少しグレードの高い山へ行き、皆で喜びを分かち合おうというつもりだった。
今山の親友のDちやん、Kちやんなどはまだ入会してなかった。
そうしてやがて、正月休みに冬山も行くようになった。
冬山は日が短い。そこで早朝出発が大原則となる。このために朝の食事に時間をかけていられない。昼、タ食もコンパクト化のため、すべての食事を毎食ごと、必要量、計量してパッキングする。
このため冬山合宿をひかえた年末は、その準備が大変である。このパッキングは我が設計室で行なわれた。最初は時間外にやっていたが、だんだんと日がせまると、やむなく時間内でも作業を行なった。
上司のS課長にも見つかった。苦虫を噛みつぶしたような顔をして、二回ほど見にきたが、あのバカ言ってもだめだと悟ったか、それからパタリと来なくなった。
かくして我が設計室での冬山準備は白熱化するのであった。
山へ持って行く備品の中で、トイレットペーパーは重要な物品だ。
本来の目的より食後の食器を拭くのである。といっても洗った物を拭くふきんという用途ではない。
冬山では時間をかけてコンロで雪を溶かして作る貴重な水で食器を洗うわけにはいかない。そこで食後、使った食器で飲物を飲む。
たとえば、メシの食器に茶、味噌汁椀にコーヒーというあんばいで、まあ飲物で食器を洗い下水の代わりに胃に流し込むというものである。
そしてわずかなお湯を最後に入れ、それも飲んで、その後少しのトイレットペーパーで食器を拭く。貴重なトイレットペーパーを節約したかっただけでだ。
しかし、こんな目的があることを、新人は理解できないらしく、新しく入部した新人は、この山岳部は食事が祖末だが飲物だけは豊富だ、と感心していた。
トイレットペーパーは会社のトイレから調達した。カッパラウ感じではなく、まあ会社のリクリエーション活動だから少ない行事費の追加として寄付していただくという軽い気持ちなのだ。
トイレットペーバーは芯を抜いて潰して持っていく。
このようにすると容積は半分になる。簡単に出来る実験なので皆さんも試みてみるとよい。
このため会社のトイレでトイレットペーパーが欠品していると、オールシーズン俺のせいにされた。
トイレットペーバーの調達は冬山と五月連休前だけなのに!。