第5話 悪ガキ集団のいたずら
今まで書いてある事では、俺達優良なボーイスカウトみたいだが、それは悪ガキの集団いたずらもする。
ある日、その攻撃目標は、新築中の家ときまった。
俺達は皆、狭いボロ家に住んでいるのに、その新築の家はヤミ成金が愛人のために建ててやるというもので、大きな家である。
闇成金とは軍需品の衣料品、食料など、当時なかなか手に入らないものを、不正に入手し高く売りさばいて儲けている人で、子供の目から見ても悪い奴だ。
やっつけるにはちょうどよい、悪人ごらしのつもりなのだ。
家はちょうどアラカベを塗り終わったところだ。
アラカベというのは、まず細い竹で縦、横のネットを壁に作り、粘土とワラの数センチに切った物をこねあわせ塗ったものだ。
この土に砂と粘土を混ぜあわせたものを中塗りし、さらにシックイで仕上げ塗りをして白カベが出来上がる。
このアラカベを、塗ったところをめがけ、天井の簗にアラナワをかけ、ターザンごっこよろしく足で蹴飛ばし、ぶっこわす。
面白いようにアラカベは崩れる。アラカベは、かなり厚いので乾くまで時間が掛かり、乾いたところでこわしに行く。
なぜって、乾いているアラカベは面白いようにこわれるからだ。壁を塗り直すと、また乾いた頃に、こわしに行く。数回の波状攻撃であった。
さすがに見かねた近所のおやじが俺達のこわしている所に怒鳴りに来た。
夏の最中で暑いので越中ふんどし一つの姿だ。
ガキどもはバラバラと逃げたが、俺はここで貫禄を示す時とばかりに屋根の上に登り「ヤーイ、フンドシオヤジここまで来い」とからかった。
このおやじは、悪ガキにこんな悪態をつかれた事もないのであろう。ハゲた頭まで真赤にしてカンカンになって怒った。
この家のTという息子は、小学校低学年だったと思うが、いつのまにか、毎日学校が終わると、俺のところに来ておしゃべりもせず黙って目を輝かせ、俺の実験、製作をじっと見ている変わった子だ。
どちらかというと、電気の製作に興味があったようだ。
地理学者、間宮林蔵の末裔というお母さんが夕飯を呼びに来るまで毎日である。
何のいたずらもせずに、なにも喋らずに、じっと俺の作業を見ているこの子を、お母さんは、俺の弟子と呼んでいた。
息子が世話になっている事を知っていたオヤジは、こんな悪い事を俺のいたずらを、母には言わなかったらしく、叱られなかった。
しかし大人に叱られてまでいたずらを続けるような悪さもなく、そのヤミ成金のタヌキ御殿は、俺達がこわした壁のやりなおしで、一ケ月遅れとはなったが、無事完成したのであった。