第15話 テントでスキー合宿、風呂はホテル
正月はスキーの合宿もやる。しかし当時(昭和40年頃)は夜行で白馬駅へ直通など、便利な列車は無く、上諏訪駅終点など、すいた鈍行列車をよく使った。
プラットホームで夜を明かすわけだが、上諏訪は温泉の豊富なところでホームの洗面所に温泉が引かれていた。洗顔用ではあるが十個ぐらい蛇口のある細長いセメントの洗面台は排水口をタオルで塞ぐと浅いが風呂になる。
ホームで夜を明かす人も多少いたが気にせずにプラットホーム風呂を使った。
これを駅員が見ていたからかどうか分からないが、今では駅に付属でちやんとした温泉がある。
ところで、この年は、いつもは駅でごろ寝をして夜を明かすのに、なぜか部員のUの親戚がいる信濃大町の家に合宿の初日泊めてもらった。
列車を乗り継いで苦労して信濃大町までたどり着いたのだと思う。
ところがご馳走をたくさん出され、次の日にはお土産いっぱいで、駅までリヤカーを借りて引いていくありさま。
十人近くで正月のご馳走を食いつくしさらに桃太郎のように宝ならず食料を、たんまり頂き、さぞや親戚の人は貧乏な正月を送ったのでは?と恐縮した。
というわけで、このときの合宿は食料豊富でリッチな合宿となった。
場所は白馬駅の隣の栂池というところで、林の中にテントを張った。しかしこの時、Uの工夫による携帯式組み立てコタツが、テントの中にあった。
熱源はホエーブスというガソリンコンロで、上には断熱のために金属のお盆が二重になって付いていた。
この上に毛布をかけ、湿った寝袋をのせ乾燥もさせるという万能型だ。テーブルの代わりに薄いベニヤ板が乗る。
この時、俺はコタツにあたり、タラフク食べてゴロゴロしていた。あまりスキーをやらなかった。スキーが嫌いなわけではなく、動けないぐらい食ったからだ。
食料が余っているので、各テント毎、独自に色々作っているらしい。例えばおやつにコッフェルのふたで焼いたホットケーキなど。冬山合宿ではないので毎食バックした材料ではなく各テントで自由なのだ。
テントに何日も居て中で炊事をしていると、脂ぎって煤けてくる。そして風呂に入りたくなる。寒い冬には何よりも暖かい風呂はご馳走なのだ。
このテントから十分位の所にTホテルがあった。スキー客用の宿だが大浴場の良い風呂がある。そこで、ここの泊まり客のような顔をして風呂に入りに行くのだ。
ところがズウズウしい奴がいてトランプを貸してと、フロントに言った。フロントに何号室ですか?と聞かれて、あわてて断ったそうだ。
その話を聞いてそれから風呂へ行くのも何となく気が引けて、皆はますます煤けてギタギタと脂ぎった顔になるのであった。